LIVE NIRVANA INTERVIEW ARCHIVE February 19, 1992 - Tokyo, JP
Personnel
- Interviewer(s)
- Yuji Yokota | 横田勇司
- Interviewee(s)
- Krist Novoselic
Sources
Publisher | Title | Transcript |
---|---|---|
Crossbeat | Part 2 Chris Novoselic Interview | Yes (Nihongo) |
Transcript
眠り病というのは本当か、と信じてしまうくらいオフでは覇気のないカートとは対照的な、インテリ頑固おやじ的側面を持った、もう一人のスポークスマンで消火器噴射男の、ベースのクリスに話を訊いた。
◉前回のインタビューの時は「ネヴァーマインド」が全米4位ってとこだったんですが、遂に1位になっちゃいましたね。
「ナンバー・ワンっていうのは単なる数字の問題さ。レコード自体は去年の4月に出来上がってたわけだから、それ以後のことなんて全く付け足しみたいなもんだよ。ローラーコースターがダーッと走って行って、俺達はただそれに乗ってるだけなんだ。」
◉それじゃあ、1位になったからと言って何も変わりませんか?
「いや、それは劇的に変わったよ!道を歩いてりゃ、みんな俺に気がついて、ひそひそと話を始めるし。それに経済的にずっと余裕が出来たね。その分忙しくはなったけどさ」
◉最近のアメリカのチャートって、大物が新作をリリースして、いきなり初登場1位とかになって、後は落ちるだけ、ってパターンが多いですよね。そんな中であなた達はじりじり上がって、トップまで上りつめた訳だけど、その過程でファンの反応が変わってきたな、とか思ったりしましたか?
「ファンの反応? 質問の意味がイマイチわからないけど、自分達のファンを失ったとは思わないね。俺達はアンダーグラウンド・シーンから出てきたわけだけど、そういったところではメインストリーム・レベルで人気を得たバンドを軽蔑するような風潮がある。でも俺達に関してはそんなことないと思うよ。別にメインストリームの趣味に合わせて作ったわけじゃないからな」
◉いや、そのですね、たとえカレッジ・ラジオを聞いてたようなファン全員が買っても1位にはならんだろう、って事を言いたいんですよ。
「そうさ、俺もそれが言いたかったんだ。カレッジ・ラジオとかのファンはたいていメインストリームから孤立していて、トレンドをただ見ているようなところがあるのにね。でも同時にメインストリームの新しいファンを獲得出来たのは嬉しいよ。こうしたことでこれからの音楽のアティチュードを変えていけたら、と思うね。ソニック・ユース、マッドハニー、ダイナソーJR.とか、アンダーグラウンドから出てきたバンドがもっと活躍出来ればいい。彼らは俺達のために道を開いてくれた。だから今度は俺達がお返しする番さ。」
◉前回の取材の時に、成功の理由の一つとしてMTVでビデオ・クリップをガンガンかけてくれたことを挙げていましたが、内容は何か暗くて、MTV向きってわけじゃないですよね。
「あれはバンドで考えたんだよ。ある日、ハイスクールにおけるアナーキズムについて、なんて冗談を飛ばし合っててさ、ルールなんかこれっぽっちもなくて、みんなアナーキストで象徴主義者で、全部黒とかAなんていう記号でアナーキズムを表わしたりしてね、なんて話してたんだ。それがビデオの内容に固まっていったってわけさ」
◉"スメルズ・ライク・ティーン・スピリット"のビデオでは、あなた達の演奏と共に、チアガールが出てきますよね。普通チアガールなんて言うと、平和な古き良きアメリカの象徴みたいなイメージを抱くんだけど、何か一つも健康そうに見えないというか……。
「うん、2つの象徴主義をまぜこぜにしたかったんだ。一つはハイスクールの体育館でバスケット・ボールなんかやってて、チア・リーダーがいて、客席には生徒達がいっぱい、っていうごく普通の図。でも実はその後ろにそれをひねったものが存在してる。その2つを交ぜ合わせたものをイメージしたかったんだ。アメリカのハイスクール的なものとアナーキズム的なね」
◉何故、アナーキズムなんですか?
「そうだなあ、ほとんどのビデオにおける暗さって、基本的には静の暗さだろ? つまりアート感覚の暗さなんだ。そこには "静" 以外のものは感じないけど、アナーキズムの暗さからは色んなことが思い浮かべられると思うんだ」
◉僕はこのビデオを観て、『ヘザース』って映画を思い出したんだけど。 「あれは典型的なアメリカのハイスクールを描いたものだからな。チア・リーダーがいて、フットボールの選手がいて……。それで俺達のビデオではそのガキどもがアナーキズムに熱中してるようにしたのさ。でも誤解のないよう言っておくと俺達がアナーキストだって言ってるわけじゃない。俺個人はアナーキズムや社会主義を信じてるけど、そういう倫理は個人のものであって、人に押しつけるものじゃないからな」
◉『ヘザース』にしても、あるいは『ツイン・ピークス』や『シザー・ハンズ』なんかにしても、一見平和に見えるけれど、実はその中に病理が潜んでいる、といったものを描いた作品が米国で話題になることが最近多いようですが。
「当然さ、それが現実なんだから。政治家を見てごらんよ。悪の限りを尽くしてるのに、テレビに出るとみんないい人に映るだろ? 全ては隠されているのさ。世界中そんなものでいっぱいだよ。これを話し出すと何時間でもしゃべれるけどね」
◉こういう質問をしたのは、カートの詞の世界にそんな部分を感じたからなんです。
「まあ、カートの歌詞はうまくオブラートに包んであるけどね。俺はね、人は本当に辛い現実からあまりにもかけ離れたところにいると思うんだ。メディアはそういう残酷なものでみんなを怖がらせたくないって思ってるからさ。だから悪いものが表面にブクブクと浮上してくるのはいいことだよ。それがポジティブであればね」
◉それじゃあ、ポップなダンス・ミュージックやステレオタイプのハード・ロックばかりのチャートの中に、あなた達が浮上してきたのも、そんな風潮と結びついてるんですかねえ。
「理由はいろいろあるよ。ダンスものはもう随分幅をきかせてきたから、もう干上がっちまったんじゃないかな。メインストリームのヘヴィ・メタルにしたってそうさ。その結果、俺達がもうちょっと中心に据えられるようになったってことなんだ。それにこの12年間、アメリカは右翼の保守政府のもとに統治されて来たわけだけど、メディアやメインストリームのアートもそういった風潮に反映されてたんじゃないかと思う。だから今後はもっと左翼寄りになっていくかもしれないよ。そうなってくれればいいけどね。そうなっても俺は驚かないよ」
© Yuji Yokota, 1992