LIVE NIRVANA INTERVIEW ARCHIVE February 19, 1992 - Tokyo, JP

Interviewer(s)
Yoichi Hirose | 廣瀬洋一
Interviewee(s)
Kurt Cobain
Publisher Title Transcript
宝島(Takarajima) Interview ニルヴァーナ Yes (Nihongo)

全米ナンバー1になった原因を探る!!
「少なくともポイズンやガンズ&ローゼズより俺達はずっといい曲を作ってるよ」
取材・文/広瀬陽一
撮影/桑本正士

全米1位になるなんて誰も予想してなかったニルヴァーナ。彼らがウケた秘密をボーカル/ギターのカート・コバーンに聞くことにした。クッキーをモグモグ食いながらパジャマ姿で現れたカート。果たしてインタビューに真面目に答えるか!? (blue)

殆ど市井の口コミだけを武器にして全米ナンバー・ワンをかっさらったニルヴァーナ。メディアとの情報戦を勝ち抜く狡猾な機知がなければもはや不可能と思われた大成功を何の戦略もなしに達成した規格外といえるプリミティブなパワーは驚愕に値する。しかし、勇んで出掛けたライブでは、噂の世界最高水準の暴走パワーやスケールはついぞ窺えなかった。オルタナティブでロックとして屈指のバンドであることは間違いない。だが、全米の頂点に立った者に相応しい風格やたたずまいははっきり言ってなかった。むしろ感じたのは、こうした殺伐ノイズでバンドがアルバムを平気で何百枚も売り、堂々とチャートの一位に輝くような現在のアメリカの社会状況は相当行き詰まっているのではないか、ということの方だった。
インタビューに現れたカート・コバーンはよれよれのパジャマ姿。突飛な格好をしていても、それが有無を言わさぬ迫力に満ちているのならいいが、当人から特別なオーラは何も漂ってこない。目の前にいても別にありがたい気がしない。アメリカに戻る頃には、そろそろ「ネヴァーマインド」の第一回目の印税が入ってくるという。初回だけで軽く一億円は突破するらしい。月々二十万円程度で暮らしてきた彼らの生活は、一挙に月収二千万円ぐらいの水準に成り上がるわけだ。そうなった時、彼らの音楽なり、振る舞いのどこがどう変化しどう変わらないのか。一年ぐらい経ったら是非インタビューしてみたい気がした。

-アンダーグラウンドのバンドが大成功すると、それまで横柄な感じで応対していたのが途端に掌を返したように態度を変えて近づいてくる人間とかいると思うんですが、貴方達の場合、その手のことはありました?
「おおありだよ。親とか、親の友人とか、いままで俺達のやってることなんか全然認めようともしなかったような奴等がいきなり"君達は素晴らしい"とか言うようになっちゃってね、まあ、そういう連中は信用してないから、俺達の方は依然として最悪の態度をとり続けているんだけど(笑)」
-業界の人はどうです?「もっといい曲を作らなきゃ駄目だ」とか言ってたのが、「いやあ、凄い曲ばかりだな」とか言ったりする人いませんか。
「うーん、それはなかったかな。俺達のレーベルはいつも俺達を応援してくれてるし、音楽も気に入ってくれてたし、今も昔も変わらない態度で接してくれてる。ただ他のレーベルの人間とかは、ついぞ聞いたことのないようなお世辞を掛けてきたり、今まで俺達のことなんか完全ち無視してきたようなミュージシャン-ガンズ&ローゼズとかスキッド・ロウみたいなバンドが"友達になろうぜ"なんて言ってきたね。この前もアメリカで、アクセル・ローズが、ショーの後にバックステージに行ってもいいかって聞いてきたんだ。"いやだ"って断ったけど(笑)」
-ビルボードのチャートでニルヴァーナがベスト・テン入り出しだのは、ちょうどUKツアー中でしたけど、アメリカに帰国した時はどんな状態になっていたんしょうか。イギリスでのインタビューでは、「大騒ぎに飲み込まれずにいられたらいい」と発表なさってましたが。
「アメリカに帰った時は特にMTVがうるさかったね。UKツアー中にMTVが俺達のビデオをかなり流してたというのもあるんだろうけど、前回と今回のツアーの間に、ちょうど三週間ぐらい休暇があって、フィアンセとオーストラリアに行ってたんだけど、殆どホテルの中でテレビを見たりして過ごしてたからあまり外部との接触もなかったんだ。だから、全米ナンバー・ワンが、実際どういう状態なのかっていうのはよく分からないんだ。いまだに上手くサインもできないし(笑)。あ、ニルヴァーナのメンバーだ、って近づいてくる人達にどう対処したらいいのか相変わらず分からないしね。名声とかこれから付きまとってくるものを冷静に客観視できるか自信ないよ。ただ、自分のエゴを出すみたいで嫌だけど、基本的に現在メジャーで売られている音楽より俺達の音楽の方が優れているとは思ってる。少なくともポイズンやガンズ&ローゼズよりずっといい曲は作ってるよ(笑)」
-全米ナンバー・ワンに輝くというのは、単にアグレッシブで先鋭的なティーンエイジャーから受けがいいだけではなく、もっと幅広い層への訴求力がないとなかなか達成できるものではないですよね。だから、やはり平均すると、ホイットニー・ヒューストンとか、ロックでもブライアン・アダムスとかのほほんとして悠長な音楽の方が上位にくる率が高いわけですよね。で、ライブを見て、改めて思ったんですが、やはりこういう荒涼・殺伐としたフィード・バック・ノイズの音楽が、全米ナンバー・ワンになるというのは、今行き詰まっているアメリカの社会的・時代的背景と無関係ではないのではないのかと。ゴージャスで裕福だったアメリカの 終焉、それが大きく関係しているのではないかなって気がしたんです。御本人としてはそんなこと考えたりしませんか。
「今は若い世代の方がずっといろんなことに気付いていると思うんだ。インテリジェントだしね。でも同時に疲れ切っている。レーガン政権が十年以上も続いてきて、その間に自分の親達がしてきたミスを見てきたわけだし、彼らがいかに偽善者だったかっていうのも分かってしまったんだ。しかし、ブッシュは相変わらずレーガンの路線を踏襲しているし、悪い状態の中にみんな長くいすぎている。そうした社会の情勢と俺達が受け入れられたというのは、確かに関係はあるのかもしれない。例えば、ガンズ&ローゼズは何百万枚もレコード売ってるけど、買っているのは殆どがティーンエイジャーだよ。そこだけをターゲットにしてナンバー・ワンになることだってできるんだ。でも、俺は、この前九歳の子供から貴方達の音楽が好きですって手紙をもらったんだ。ニルヴァーナの音楽はパンクが好きな十八歳の子にもアピールするかもしれないけど、九歳の子にも訴えかけるものがあったというのは、自分達が成し遂げたことの中でも最高のことだよね。」
-パンクの出現にしたって、やはり税金問題、失業率の増加など国自体が荒廃しつつあった七十年代中期のイギリスの社会的背景と切っても切れない関係があったと思うんです。ここに来て、貴方達やメタリカの活躍、オルタナティブ系のソニック・ユース、ダイナソーJrなんかに共通する破壊者やノイズ・ギターを聴いていると、どうもアメリカの状態は相当悪いんじゃないかって思ったりするんですよ。
「そうだろうね。若い世代もそういった悪い状態にうんざりしてるんだと思う。彼らは絶対に親達を尊敬なんかしてないし、ある意味では見限ってしまっているんだ。で、エンターテインメントの世界でも彼らの要求に応えるものは出てなかったんじゃないかな。で、自分達の探しているもの、自分と意見が通じる、何かしら共振できるものっていうのはオルタナティブ・ミュージックの中にあったんだと思う。俺自身、買った場所は小さな町だったんだけど、そこに入ってくるオーバーグラウンドの情報なんてつまらないものばかりだった。でも、最近はどんな片田舎の町であろうとも、あらゆる情報が入ってくる時代で、いろいろとコミニュケーションがとれるから、アンダーグラウンドな音楽、オルタナティブなものも皆聴く機会が出てきて、日の目を見るようになったんじゃないのかな。」
-UKツアーでは、日本の少年ナイフが前座を務めましたが、それは貴方達の要望だったと聴いてます。どういう経緯からそうなったんですか。
「もう五年くらい前から少年ナイフのファンなんだ。今まで聴いてきた音楽の中でベストと思えるくらい好きだった。説明ができないくらい良く書けてるよ。本当にビートルズと同じくらいいい曲だと思うな。それで、どうにかコンタクトを取ってくれってマネージャーに頼んで、一緒にツアーしてくれないかって連絡してもらったら、OKの返事があったわけさ」
-つい最近あったライブで、彼女達も「最初ツアーの話が来た時は、写真見るとニルヴァーナの人達恐そうだし、行くの嫌だな、断ろうかなと思ってたんですけど、実際会ったら、チョコレートこうてくれたりして、やさしいお兄さんでした」って喋ってましたが(笑)。じかに接した彼女達はイメージ通りのパーソナリティでしたか。
「そうか、チョコレートがきいたね(笑)。・・・うん、本当に思ってた通りの人達だった。音楽と同じような感じだったね。それこそ彼女達の音楽が本物だという証拠だと思う。ライブで大阪に行った時は、夕食を食べたり、一緒にテレビに出たりもしたんだ。これからもずっと連絡は取り合っていくつもりだよ」
-ライブの時間は、正味一時間ぐらいでしたが、いつもあんなものなのですか。あれ以上演ることは、自分達にとってもしんどい、過剰だっていう感じなんでしょうか。
「そりゃ、疲れるよ、二時間もやったら。最長で一時間半かな。大抵は一時間がいいとこ。元々前座をずっとやってて、四十分ぐらいだったからその癖が残っててね。実際、自分達の曲数がまだ少ないし、曲があったとしてもライブで演奏して楽しいって思える曲が少ないんだよ。」
-例えば、黒人のファンク・バンドのコンサートに行ったりすると、明らかに日本人の消化能力のスケールを越えてしまっている気がする時があるんです。例えば、こっちは二時間ぐらいまでは楽しんでられても、それが四時間となるともうトゥー・マッチで、ついていけないんですね。でも、黒人の観客は四、五時間平気っていう人達が大勢いるのかもしれない。そういう個々の人種の精神と肉体の受容能力については、どう考えてますか。
「例えばどういった黒人アーティストについて話しているのかな、ファンク・バンドで四時間やる奴って誰なのかな?見当つかないよ」
-P-ファンク・バンドの連中はいつだって四時間はできるって豪語してますよ。
「ジーザス!(笑)。分からないな、それが文化的背景によるものなのか、個々のバンドのレベルなのか・・・」
-例えば、こういう聞き方をしてもいいんですが、貴方達がプロレスラーのようなパワーと持久力を持っていたとするなら、ニルヴァーナのノイズ・ギターの破壊力や衝撃度の数値はもっと上がると思います?
「うーん。確かにスポーツならば、精神力と肉体的パワーがあれば、もっと力は出るんだろうけと。・・・やっぱり肉体的要素は関係ないかな。コンサートの通常のフォーマットというのは、途中で喋りがあったり、ギター・ソロがあったり、長いアンコールがあったりするじゃない。みんな密と粗の構成をうまく考えてるわけさ。でも、俺達は一時間の間にただエネルギーを凝縮してしまうんだと思う。ほら、Less is more. (少なければ少ないほどいい)っていう言葉があるけど、俺達にはあれがぴったりだな」

© Yoichi Hirose, 1992